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Zabbix で Yamaha RTX を SNMP 監視する方法 — 基礎から設定まで完全解説

最終更新: 2026年3月 検証環境: Zabbix 7.0.23 LTS / AlmaLinux 9.5 / RTX1300(Rev.23.00.05)/ RTX830(Rev.15.02.30)


Yamaha RTXシリーズは日本の中小企業・拠点ネットワークで圧倒的なシェアを持つルーターである。しかしZabbixにはYamaha RTX用の公式テンプレートが同梱されていないため、SNMP監視の設定でつまずくケースが多い。

本記事では、RTX側のSNMP有効化からZabbixサーバーへのPrivate MIB導入、snmpwalkによる疎通確認、そしてホスト登録まで、SNMP監視に必要な基礎知識と手順を一通り解説する。

対象機種はRTX1300、RTX1220、RTX830を中心に、SNMPv2cに対応するYamaha RTシリーズ全般で応用可能である。


目次

前提知識: SNMP と MIB の基本

SNMP とは

SNMP(Simple Network Management Protocol)は、ネットワーク機器の状態を取得・管理するためのプロトコルである。Zabbixのようなモニタリングツールから機器に対してリクエストを送り、CPU使用率やトラフィック量などの情報を収集する仕組みとなっている。

SNMPにはv1、v2c、v3の3つのバージョンがあり、Yamaha RTXシリーズではSNMPv2cが最も一般的に使用される。v2cはv1に比べて64ビットカウンターに対応しており、高トラフィック環境でのカウンターのラップアラウンドを防止できる。

MIB と OID

MIB(Management Information Base)は、SNMP経由で取得できる情報の定義集である。各情報にはOID(Object Identifier)と呼ばれる一意の番号が割り当てられている。

MIBは大きく2種類に分かれる。

標準MIB(MIB-2): すべてのネットワーク機器で共通の情報を定義したもの。インターフェーストラフィック(ifTable)、システム稼働時間(sysUpTime)などが含まれる。OIDは .1.3.6.1.2.1 以下に配置される。

プライベートMIB(Private MIB / 拡張MIB): ベンダーが独自に定義した情報。YamahaのプライベートMIBは .1.3.6.1.4.1.1182(enterprises.yamaha)以下に配置され、CPU使用率やメモリ使用率など、標準MIBでは取得できないルーター固有の情報を提供する。

Yamaha プライベート MIB の構造

Yamaha RTシリーズのプライベートMIBツリーは以下の構造となっている。

enterprises(1)
  └─ yamaha(1182)
       └─ yamahaRT(2)
            ├─ yamahaRTHardware(1)  ... ハードウェア情報(CPU、メモリ等)
            ├─ yamahaRTFirmware(2)  ... ファームウェア情報
            ├─ yamahaRTInterfaces(3) ... インターフェース情報
            ├─ yamahaRTIp(4)        ... IP情報
            └─ yamahaRTSwitch(5)    ... 接続スイッチ情報

本記事で重要になるのは主に yamahaRTHardware(1)yamahaRTFirmware(2) である。


Yamaha RTX で取得できる主要な OID

RTXシリーズでSNMP経由で取得可能な主要項目とOIDを以下にまとめる。

ハードウェア情報(yamahaRTHardware)

項目OIDMIB名
CPU種別.1.3.6.1.4.1.1182.2.1.1yrhCpuTypeDisplayString
メモリサイズ.1.3.6.1.4.1.1182.2.1.2yrhMemorySizeINTEGER(Byte)
FlashROMサイズ.1.3.6.1.4.1.1182.2.1.3yrhFlashROMSizeINTEGER(Byte)
メモリ使用率.1.3.6.1.4.1.1182.2.1.4yrhMemoryUtilINTEGER(%)
CPU使用率(5秒平均).1.3.6.1.4.1.1182.2.1.5yrhCpuUtil5secINTEGER(%)
CPU使用率(1分平均).1.3.6.1.4.1.1182.2.1.6yrhCpuUtil1minINTEGER(%)
CPU使用率(5分平均).1.3.6.1.4.1.1182.2.1.7yrhCpuUtil5minINTEGER(%)
筐体内温度.1.3.6.1.4.1.1182.2.1.15yrhInboxTemperatureINTEGER(℃)
メモリサイズ(MB).1.3.6.1.4.1.1182.2.1.19yrhMemorySizeMBINTEGER(MB)

筐体内温度(yrhInboxTemperature)はRTX1210以降の機種で対応している。RTX810など旧機種では取得できない場合がある。

ファームウェア情報(yamahaRTFirmware)

項目OIDMIB名
ファームウェアリビジョン.1.3.6.1.4.1.1182.2.2.1yrfRevisionDisplayString
ファームウェア起動日時.1.3.6.1.4.1.1182.2.2.8yrfUpTimeTimeTicks

標準MIB(MIB-2)の主要項目

項目OIDMIB名
ホスト名.1.3.6.1.2.1.1.5.0sysName
システム説明.1.3.6.1.2.1.1.1.0sysDescr
稼働時間.1.3.6.1.2.1.1.3.0sysUpTime
インターフェース情報.1.3.6.1.2.1.2.2ifTable
インターフェース拡張情報.1.3.6.1.2.1.31.1.1ifXTable

トラフィック監視には標準MIBのifTable / ifXTableを使用する。ifXTableの64ビットカウンター(ifHCInOctets / ifHCOutOctets)はSNMPv2c以上で利用可能である。


STEP 1: RTX 側の SNMP 設定

RTXのコンソール(Telnet / SSH / シリアル)にログインし、SNMP機能を有効化する。Yamaha RTXはデフォルトでSNMPが無効になっているため、明示的な設定が必要である。

SNMPv2c の基本設定

# 管理者モードに移行
administrator

# SNMPコミュニティ名の設定(読み取り専用)
snmp community read-only monitoring-community

# Zabbixサーバーからのアクセスを許可
snmpv2c host 192.168.1.100 monitoring-community

# トラップ送信先の設定(必要に応じて)
snmpv2c trap host 192.168.1.100 monitoring-community

# sysName の設定(Zabbixでのホスト識別用)
snmp sysname "RTX1300-HQ"

# sysLocation / sysContact の設定(任意)
snmp syslocation "Tokyo Office Server Room"
snmp syscontact "admin@example.com"

# 設定の保存
save

コミュニティ名はデフォルトの「public」を避け、推測されにくい文字列を設定する。SNMPコミュニティ名は平文でネットワーク上を流れるため、ログインパスワードと同一の文字列を使用してはならない。

PP / Tunnel インターフェースの MIB2 表示設定

Yamaha RTXでは、PPインターフェース(PPPoE接続等)やTunnelインターフェース(VPN等)の情報がデフォルトではMIB-2のifTableに表示されない。Zabbixでこれらのインターフェースのトラフィックを監視するには、以下の設定が必要である。

# PPインターフェースをMIB-2で表示
snmp yrifppdisplayatmib2 on

# TunnelインターフェースをMIB-2で表示
snmp yriftunneldisplayatmib2 on

# 設定の保存
save

この設定を入れないと、VPNトンネルやPPPoE回線のトラフィックがZabbixで取得できないため、VPN監視を行う場合は必ず設定する。

設定の確認

RTXコンソールで現在のSNMP設定を確認する。


show config | grep snmp

STEP 2: Zabbix サーバーへの Private MIB 導入

Zabbix自体はOIDの数値指定でSNMPデータを取得できるため、MIBファイルの導入は必須ではない。しかし、snmpwalkやsnmpgetコマンドでのデバッグ時にシンボル名(yrhCpuUtil5secなど)で表示されるようになるため、導入しておくことを推奨する。

net-snmp のインストール

# AlmaLinux / Rocky Linux
sudo dnf install net-snmp net-snmp-utils

# Ubuntu / Debian
sudo apt install snmp snmp-mibs-downloader

Yamaha プライベート MIB のダウンロードと配置

cd /usr/share/snmp/mibs
sudo wget http://www.rtpro.yamaha.co.jp/RT/docs/mib/yamaha-private-mib.tar.gz
sudo tar xvzf yamaha-private-mib.tar.gz

展開すると以下のMIBファイルが配置される。

yamaha-product-id.mib.txt          ... 製品ID定義
yamaha-rt-hardware.mib.txt         ... ハードウェア情報
yamaha-rt-firmware.mib.txt         ... ファームウェア情報
yamaha-rt-interfaces.mib.txt       ... インターフェース情報
yamaha-rt-ip.mib.txt               ... IP情報
yamaha-rt-switch.mib.txt           ... スイッチ情報

MIB の読み込み設定

sudo vi /etc/snmp/snmp.conf

以下を記述する。

mibs all

設定後、MIBが正しく読み込まれるか確認する。

snmptranslate -IR -On yrhCpuUtil5sec

.1.3.6.1.4.1.1182.2.1.5 のようなOIDが出力されれば成功である。以下のように表示される場合はMIBが読み込まれていない。

# 失敗時の出力例
Unknown object identifier: yrhCpuUtil5sec

STEP 3: snmpwalk による疎通確認

Zabbixにホストを登録する前に、snmpwalkコマンドで実際にRTXからデータを取得できるか確認する。このステップを飛ばしてZabbixの設定に進むと、問題の切り分けが困難になる。

基本情報の取得

# システム情報の取得
snmpwalk -v 2c -c monitoring-community 192.168.1.1 system

以下のような出力が得られれば疎通成功である。

SNMPv2-MIB::sysDescr.0 = STRING: RTX1300 Rev.23.00.05 (Mon Jan 15 09:30:00 2024)
SNMPv2-MIB::sysObjectID.0 = OID: SNMPv2-SMI::enterprises.1182.1.53
SNMPv2-MIB::sysUpTime.0 = Timeticks: (123456789) 14 days, 6:56:07.89
SNMPv2-MIB::sysName.0 = STRING: RTX1300-HQ

Yamaha プライベート MIB の取得

# ハードウェア情報全体の取得
snmpwalk -v 2c -c monitoring-community 192.168.1.1 .1.3.6.1.4.1.1182.2.1

# CPU使用率(5秒平均)を個別取得
snmpget -v 2c -c monitoring-community 192.168.1.1 .1.3.6.1.4.1.1182.2.1.5.0

# メモリ使用率を個別取得
snmpget -v 2c -c monitoring-community 192.168.1.1 .1.3.6.1.4.1.1182.2.1.4.0

# ファームウェアリビジョンの取得
snmpget -v 2c -c monitoring-community 192.168.1.1 .1.3.6.1.4.1.1182.2.2.1.0

インターフェース情報の取得

# インターフェース一覧の確認
snmpwalk -v 2c -c monitoring-community 192.168.1.1 ifDescr

RTX830の場合、以下のようなインターフェースが表示される。

IF-MIB::ifDescr.1 = STRING: LAN1
IF-MIB::ifDescr.2 = STRING: LAN2
IF-MIB::ifDescr.3 = STRING: LAN3

snmp yrifppdisplayatmib2 on を設定済みであれば、PPインターフェースも表示される。

IF-MIB::ifDescr.129 = STRING: PP[01]

snmp yriftunneldisplayatmib2 on を設定済みであれば、Tunnelインターフェースも表示される。

IF-MIB::ifDescr.133 = STRING: TUNNEL[1]
IF-MIB::ifDescr.134 = STRING: TUNNEL[2]

トラブルシューティング

snmpwalkで応答がない場合、以下を確認する。

症状確認項目
Timeout: No ResponseRTX側のSNMP設定(snmpv2c host)でZabbixサーバーのIPが許可されているか確認
Timeout: No ResponseZabbixサーバーからルーターへの到達性(ping)を確認
Timeout: No ResponseRTXのファイアウォールフィルターでUDP 161がブロックされていないか確認
No Such ObjectOIDの末尾に .0 が付いているか確認(スカラー値の場合は必要)
No Such Object該当OIDがその機種でサポートされているか確認

STEP 4: Zabbix へのホスト登録

snmpwalkで疎通を確認できたら、Zabbix Web UIからRTXをホストとして登録する。

ホストの作成

データ収集 → ホスト → ホストの作成

ホストタブの設定:

項目設定値
ホスト名RTX1300-HQ(任意の識別名)
テンプレート(次節で解説するテンプレートをリンク)
ホストグループTemplates/Network devices(または任意のグループ)
インターフェースSNMP を追加

SNMPインターフェースの設定:

項目設定値
IPアドレス192.168.1.1(RTXのIPアドレス)
ポート161
SNMPバージョンSNMPv2
SNMPコミュニティ{$SNMP_COMMUNITY}

SNMPコミュニティはマクロ {$SNMP_COMMUNITY} を使用し、ホストマクロとして実際のコミュニティ名を設定する。テンプレートやホスト設定にコミュニティ名をハードコードしないことで、複数ホストでの管理が容易になる。

ホストマクロの設定:

ホストの「マクロ」タブで以下を設定する。

マクロ
{$SNMP_COMMUNITY}monitoring-community

バルクリクエストの無効化

Yamaha RTXシリーズでは、SNMPのバルクリクエスト(GetBulk)に対する処理能力が限定的であり、大量のアイテムを一度にリクエストするとタイムアウトやCPU高負荷が発生する場合がある。

ホストのSNMPインターフェース設定で「バルクリクエストを使用」を「いいえ」に設定することを推奨する。


STEP 5: 手動でのアイテム作成(テンプレートを使わない場合)

テンプレートを使用しない場合や、個別に監視項目を追加したい場合の手動設定手順を示す。

CPU使用率アイテムの作成例

データ収集 → ホスト → (対象ホスト) → アイテム → アイテムの作成
項目設定値
名前CPU utilization (5 sec average)
タイプSNMPエージェント
キーyrhCpuUtil5sec
SNMP OID.1.3.6.1.4.1.1182.2.1.5.0
データ型数値(整数)
単位%
監視間隔60s
アプリケーションCPU

メモリ使用率アイテムの作成例

項目設定値
名前Memory utilization
タイプSNMPエージェント
キーyrhMemoryUtil
SNMP OID.1.3.6.1.4.1.1182.2.1.4.0
データ型数値(整数)
単位%
監視間隔60s
アプリケーションMemory

トリガーの作成例

CPU使用率が継続的に高い場合のトリガー例を示す。

項目設定値
名前CPU utilization is too high on {HOST.NAME}
条件式min(/RTX1300-HQ/yrhCpuUtil5sec,5m)>80
重要度警告

機種別の対応状況

Yamaha RTXシリーズは機種によって対応するMIBオブジェクトが異なる。主要な監視項目の機種別対応状況を以下にまとめる。

MIBオブジェクトRTX830RTX1220RTX1300
yrhCpuUtil5sec / 1min / 5min
yrhMemoryUtil
yrhMemorySize
yrhMemorySizeMB
yrhInboxTemperature
yrfRevision
ifXTable(64ビットカウンター)○(v2c)○(v2c)○(v2c)
PP/Tunnel MIB2表示

RTX810以前の旧機種では yrhInboxTemperature が取得できない場合がある。テンプレート適用後にエラーが出るアイテムは無効化して対応する。


セキュリティ上の注意

コミュニティ名の管理

SNMPv2cのコミュニティ名は認証情報として機能するが、ネットワーク上を平文で送信される。以下の点に注意する。

  • デフォルトの「public」は絶対に使用しない
  • ログインパスワードと同一の文字列を使用しない
  • RTXの snmpv2c host コマンドで、アクセス元IPアドレスをZabbixサーバーに限定する
  • 監視セグメントをVLANで分離することを検討する

より高いセキュリティが必要な場合

セキュリティ要件が厳しい環境では、SNMPv3の利用を検討する。Yamaha RTXシリーズはSNMPv3に対応しており、認証(Auth)と暗号化(Priv)を組み合わせた通信が可能である。ただし、設定の複雑さが増すため、まずはSNMPv2cで動作を確認してからv3への移行を検討するのがよい。


まとめ

Yamaha RTXシリーズのZabbix SNMP監視に必要な基礎知識と設定手順を解説した。

  1. SNMPとMIBの基本概念
  2. Yamaha プライベートMIBの構造と主要OID
  3. RTX側のSNMPv2c設定(コミュニティ名、ホスト許可、PP/Tunnel表示)
  4. ZabbixサーバーへのプライベートMIB導入
  5. snmpwalkによる疎通確認
  6. Zabbixへのホスト登録とアイテム作成

本記事で解説した手動設定は動作原理の理解に有用だが、実運用では次の記事で紹介するテンプレートを利用することで、設定の手間を大幅に削減できる。

関連記事: Zabbix × Yamaha RTX テンプレート配布 — CPU / メモリ / VPN / トラフィック一括監視


本記事の内容は検証環境での結果であり、本番環境への適用は各自の環境に合わせて十分にテストのうえ実施していただきたい。

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